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測地学研究の最前線

測地学に興味を持った皆さんへ

このページでは、本研究室所属の教員(福田・宮崎・風間)およびその指導学生による、 最近の主な研究成果(雪氷学・地震学・火山学関連)をご紹介します。 なお、ここに挙げている研究成果は、本研究室の教員・学生の研究内容を全て網羅するものではありません。 私たちはこれ以外にもいろんな研究を行っていますし、新しく入ってきた学生とは論文講読や議論を重ねて研究テーマを決定しています。 本研究室で研究することに興味のある方は、ぜひ研究室や測地雑誌会にいらしてください。
(右図:測地学の対象領域のイメージ図。日本測地学会編「測地学テキスト」の表紙より。)

研究例その1: 衛星測地データを用いた南極氷床変動モニタリング

南極は地球全体の9割にも及ぶ氷床が存在し、この全てが融けると地球海面が60 mも上昇すると言われている。 南極氷床変動を監視するため重力観測衛星GRACEのデータがしばしば用いられるが、 GRACEは氷床変動だけでなくGIA(過去の氷床融解に伴う地殻隆起)も検出してしまうので、 この寄与を補正するためにGIAモデルが必要である。 しかしながら、GIAモデルは数多くの仮定の下に作られておりモデル間の違いが非常に大きいため、 南極氷床変動の見積もりに大きな誤差が生じてしまうという問題点がある。
そこで本研究では、南極氷床変動量を精度良く見積もるために、 EnviSatおよびICESatという2つの衛星高度計のデータから南極氷床の体積変化量を計算し、 GRACEで得られる南極氷床の質量変化量と比較した。 その結果、衛星高度計/衛星重力のどちらの結果でも、 大規模な棚氷(氷床が海面上に押し出された部分)の存在する西南極で氷体積/質量が大きく減少していることが分かった。 一方、東南極では氷体積/質量が増加しており、このことは地上観測の結果とも一致した。 また、衛星高度計から得られた南極全体の氷床体積変化量は-39.6 km3/yearであり、 新氷や万年雪の密度を仮定すると、GRACEから得られる質量変化量(-174 ~ -48.4 Gt/year)とも良く一致した。
本研究は「衛星高度計のデータを用いることで氷床体積の時間変動を精度良くモニターできる」ということを示した。 しかしながら、EnviSatデータから得られる氷床変動の空間パターンがGRACE/ICESatと一致していない部分があり、 今後更なる解析が必要と考えられる。



写真(クリックで拡大): 東南極・ラングホブデ氷河。2011年12月、風間卓仁撮影。
図(クリックで拡大): EnviSatデータで得られた南極氷床の高度変化。参考文献Figure 5-5(b)より。
参考文献: 長崎鋭二 (2012), 人工衛星データを用いた南極氷床質量変動に関する研究, 京都大学大学院理学研究科修士論文.

研究例その2: 粘弾性変形を考慮した東北地方太平洋沖地震の余効変動メカニズムの解明

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)では、 日本のGNSS観測網GEONETによって東向きに5 mもの地震時地殻変動が、 また地震後には2年半で1 mに達するほどの急速な余効変動(余効的な地殻変動)が観測された。 一般的に余効変動の原因としてはアフタースリップ (余効すべり:地震時に滑った断層破壊域の周辺がゆっくり滑る現象)が主要因と考えられてきたが、 海底地殻変動観測によると宮城沖で地震後に西向きの余効変動が観測されている。 そもそもアフタースリップでは地震時と同じ向きの地殻変動が期待されるので、 地震後の東北沖周辺ではアフタースリップ以外の寄与で余効変動が起きている可能性が高い。
そこで本研究では、余効変動のもう1つの要因である粘弾性変形を考慮し、 東北日本の地震時および地震後の地殻変動場を再現した。 具体的には、GEONETと海底地殻変動観測点で得られた地震時および地震後の地殻変動を入力データとし、 地震時と地震後の断層すべりに伴う粘弾性変形の寄与をグリーン関数に組み込んだうえで、 地震時の断層すべり分布・地震後の余効すべり時空間変化を逆解析によって同時推定した。 その結果、地震後の余効すべりは東北地震時や歴史地震時の滑り域とは別の領域で発生していたが、 地震後約2年半でほぼ終息していたことが分かった。 また、陸上域の東向き余効変動はほぼ余効すべりによって、 また宮城沖の西向き余効変動はほぼ粘弾性変形によって説明可能であることが定量的に初めて示された。
左図(クリックで拡大): 地震時および地震後2年半のプレート境界すべり分布。参考文献Figure 3より。
右図(クリックで拡大): 地震時および地震後2年半の地殻変動場。参考文献Figure 4より。
参考文献: Yamagiwa, S., S. Miyazaki, K. Hirahara, and Y. Fukahata (2015), Afterslip and viscoelastic relaxation following the 2011 Tohoku-oki earthquake (Mw9.0) inferred from inland GPS and seafloor GPS/Acoustic data, Geophys. Res. Lett., 42, 66-73, doi:10.1002/2014GL061735.  リンク

研究例その3: 地上重力観測を用いた火山内部におけるマグマ移動のモニタリング

重力観測は火山内部の質量変動を監視するのに効果的な方法の1つである。 しかしながら、重力値は降水・地下水流動といった陸水変動によっても大きく変化し、 この陸水起源の重力擾乱によって火山起源の重力変化が乱されることがしばしば発生する。 例えば2004年の浅間山噴火では、絶対重力計FG5(観測精度:2 μGal)による約2か月半の連続観測が実施されたものの、 相次ぐ台風襲来によって20 μGal超の陸水擾乱を観測するにとどまっていた。
そこで本研究は、陸水物理学の手法によって陸水擾乱を補正し、浅間山噴火起源の重力シグナルを抽出することを試みた。 具体的には、まず土壌水および地下水の流動方程式を数値的に解き、浅間山内部に水質量の時空間分布を精確に求めた。 その後、この水質量分布を空間的に積分することで陸水起源の重力変化を計算し、これを重力観測データと比較した。 その結果、本手法で計算された陸水擾乱は実際の重力変化を3 μGalという高精度で再現できることが分かった。 また、重力観測データから陸水擾乱計算値を差し引くと振幅5 μGalの重力変化を抽出でき、 しかもこの重力変化は火山火道(パイプ状のマグマの通り道)におけるマグマの上昇/下降によって説明できることが見出された。
本研究で用いた陸水モデルを今後浅間山に適用すれば、火山噴火時のマグマの移動をリアルタイムで監視できると期待される。 また、本手法で用いたソフトウェアG-WATER [3D]は他の地域にも適用可能であり、 今後あらゆる地域で固体地球起源の重力変化を高精度に抽出できるものと考えられる。
写真(クリックで拡大): 浅間山において絶対重力観測を行う筆者。2006年6月、孫文科氏撮影。
左図(クリックで拡大): 絶対重力値の観測データと計算値。参考文献Figure 8より。
右図(クリックで拡大): 重力観測から推定された2004年浅間山噴火におけるマグマ上昇プロセス。参考文献Figure 12より。
参考文献: Kazama, T., S. Okubo, T. Sugano, S. Matsumoto, W. Sun, Y. Tanaka, and E. Koyama (2015), Absolute gravity change associated with magma mass movement in the conduit of Asama Volcano (Central Japan), revealed by physical modeling of hydrological gravity disturbances, J. Geophys. Res. (Solid Earth), 120, 1263-1287, doi:10.1002/2014JB011563.  リンク

写真: 噴火する桜島
夕方の桜島をフェリーから撮影しました。 以下の参考文献にある通り、私たちは測地データを用いた地震火山現象の解明に努めています。
Yamagiwa et al. (2015)
Kazama et al. (2015)


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