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絶対重力連続観測による火山内部のマグマ移動プロセスの把握

私は浅間山や桜島で絶対重力の連続観測を実施し、火山内部のマグマ移動に伴う重力変化を検出しました。 重力連続観測によって将来の火山活動の予測が可能になるかもしれません。

(記事作成日:2016年9月2日)

2004年浅間山噴火時の絶対重力変化(先行研究:2004年9月)

重力観測は火山内部の質量移動を把握するのに有効な手法の1つです。 2004年9月~12月の浅間山噴火に際しては、東京大学地震研究所の重力チームが火口東4kmの地点で絶対重力計FG5による絶対重力連続観測を実施しました。 その結果、2004年9月の重力観測データから、火道内部のマグマ移動に伴う振幅約5マイクロガルの重力変化が検出されました。 また、この重力変化をマグマ頭位に変換することで、火道内部のマグマ頭位の時間変化が得られました。


図1 : 浅間山における2004年9月の絶対重力変化およびマグマ頭位変化。Okubo and Tanaka (MST, 2012)より。

2004年浅間山噴火時の絶対重力変化(本研究:2004年10-11月)

一方、2004年10-11月の重力データは9月と大きく異なっていました。 というのも、2004年には10個もの台風が日本に上陸し、浅間山でも頻繁に豪雨が発生しました。 その影響で土壌に水分が増加し、この水質量が万有引力をもたらすことにより、重力値が急上昇したのです。 この陸水起源の重力擾乱の振幅は最大で30マイクロガルとなり、前述のマグマ移動に伴う5マイクロガルの重力変化を覆い隠してしまいました。


図2 : 浅間山における2004年9-11月の絶対重力変化、および降水量や台風上陸のタイミング。

陸水擾乱補正で得られた浅間山の重力変化

私は大学院所属の2005-2010年の間、東京大学地震研究所の重力チームで陸水擾乱に関する研究を行いました。 その結果、水文学の物理方程式を用いて地中の水の流れをモデル化することにより、陸水擾乱を再現可能であることが分かりました(詳しくは 陸水擾乱の記事 を参照)。 さらに、重力観測データから重力擾乱の計算値を差し引くことで、2004年9月と同様、10-11月についてもマグマ移動起源の重力変化を抽出することに成功しました。 この結果は、降水の有無に関係なく火山内部の質量移動を重力観測でモニターできるようになった、ということを示しています。 つまり、絶対重力連続データに陸水擾乱補正をリアルタイムで適用すれば、マグマ移動を直接モニターし、火山活動予測が可能になると期待されます。


図3 : 陸水擾乱補正で明らかになった2004年9-11月の浅間山火道のマグマ移動プロセス。

陸水擾乱補正で得られた桜島の重力変化

また私は、2000年代後半以降火山活動が活発化していた鹿児島県の桜島で、絶対重力計FG5による重力連続観測を実施しました。 桜島は年間降水量が非常に多い地域ですので、浅間山と同様に陸水擾乱補正が不可欠でした。 桜島の陸水擾乱を再現する際に気をつけたのは、「重力観測点(大隅河川国道事務所有村観測坑道)がトンネル内にあるため重力計上部の土壌水分分布を考慮する必要がある」という点と、「桜島が海に囲まれているため不圧地下水の淡水レンズ構造を考慮する必要がある」という点です。 これらの点に注意して陸水擾乱補正を適用した結果、2008年の絶対重力連続データからマグマ移動に伴う振幅約10マイクロガルの重力変化を抽出することに成功しました。


図4 : 桜島における2008年の降水量および重力変化。

火山における絶対重力連続観測:今後の展開

東京大学で博士課程修了後、私は2010-2011年に桜島のハルタ山(京都大学防災研究所桜島火山観測所)で絶対重力連続観測を実施しました。 しかし、季節風に伴う地盤振動の影響が大きく、絶対重力値の誤差が大きかったため、現在このデータの解析は進んでいません。 同時観測した地震計のデータを使って地面振動の影響を補正し、さらに陸水擾乱補正を施せば火山起源の重力変化が明らかになるかもしれません。 また、この時期には東大地震研によって有村観測所で絶対重力連続観測が継続されていましたので、うまくいけば2つの重力計で火山内部のマグマ移動をより詳細に理解できるものと期待されます。


図5 : 桜島有村から見た昭和火口噴火。2013年7月22日撮影。

関連論文・リンク

  • S. Okubo and H.K.M. Tanaka (2012): Imaging the density profile of a volcano interior with cosmic-ray muon radiography combined with classical gravimetry. Meas. Sci. Technol., 23, 042001, doi:10.1088/0957-0233/23/4/042001. LINK
  • T. Kazama, S. Okubo, T. Sugano, S. Matsumoto, W. Sun, Y. Tanaka, E. Koyama (2015): Absolute gravity change associated with magma mass movement in the conduit of Asama Volcano (Central Japan), revealed by physical modeling of hydrological gravity disturbances. J. Geophys. Res. (Solid Earth), 120 (2), 1263-1287, doi:10.1002/2014JB011563. LINK
  • 風間卓仁 (2010): 重力観測データに含まれる地下水擾乱の水文学的モデリング ~火山体マグマ移動の高精度なモニタリングを目指して~. 東京大学大学院理学系研究科博士論文.
  • 東京大学地震研究所 大久保修平教授
  • 京都大学防災研究所 桜島火山観測所
  • 国土交通省九州地方整備局 大隅河川国道事務所

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