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地球科学実験 (2016年度前期)

地球科学実験 は京都大学の全学共通科目として開講されている科目で、 2016年度前期には本研究室の風間が測地の実習を担当しています。 このページでは、地球科学実験の測地実習に関連し、 測量結果やレポートへのコメントなどをまとめていきます。

レポートその1 : C班

問題 : 1つの測線で、最初に使う標尺 と 最後に使う標尺 を同じにする理由は?


答え : 標尺目盛のずれ(底面の磨耗や凹凸に起因)に伴う誤差を相殺するため。
例えば、標尺Aと標尺Bがあり、標尺Aの目盛りに+0.1cmのずれがあるとする。 このとき、標尺Aを後視として最初に使うと、1回目の前視/後視測定で-0.1cmのずれが生じる。 一方、2回目の前視/後視測定では標尺Aを前視に使用し、このときのずれは+0.1cmである。 このように、前視/後視測定を偶数回繰り返すことで、標尺目盛のずれに伴う誤差を相殺することができる。


解説 : 10名全員がこのレポートを提出し、全員正解でした。 中には数式を用いて分かりやすく解説している方や、 しっかり文献を調べて「零目盛誤差」や「零点誤差」という用語を挙げている方もいました。
なお、標尺を日なたに置いておくと目盛りが膨張しますが、 目盛りの膨張に伴う誤差はこの方法では改善しません。 曇りの日に測量を行う、標尺を傘の陰で覆う、などの工夫をするしかないようです。

レポートその1 : D班

問題 : 「水準測量で得られた標高(仮に水準標高と呼ぶ)」 と 「GPSで得られた標高(GPS標高と呼ぶ)」 が異なるのは何故?


答え : 標高の基準が両者で異なるから。
水準標高は「平均海水面」を、GPS標高は「回転楕円体面」を標高の基準としています。 回転楕円体面はジオイド面(地球重力によって決まる仮想的な海水面)と異なる高さにありますが、 GPSで得られる「楕円体高」から、計算によって得られる「ジオイド高」(回転楕円体面〜ジオイド面の高さ)を差し引くことで補正可能です。 これにより、GPS標高はジオイド面を基準にすることができ、水準標高と同じ値になりそうですが、それでも両者は一致しません。
なぜなら、ローカルな平均海水面(日本の場合は東京湾)は海流等の影響を受けているため、 特に島嶼部(日本を含む)において、グローバルな重力観測等により得られるジオイド高と差異が生じる可能性があります。 南極・昭和基地はその極端な例で、南極周極海流が昭和基地の海水面を2m近く下げている影響で、 「水準標高」と「GPS標高」の間で2m近い差が生じるのです。


解説 : 10名がこのレポートを提出しました。 「GPSが回転楕円体を基準としている」という点までは全員が指摘していましたが、 「回転楕円体〜ジオイドの高さは補正可能である」という考察をしている人はいませんでした。 ただし、「ジオイドは海面に近い面であるが周辺環境の影響で平均海面とは異なる」、 「地球上の流体が動くので」というコメントをしている方が2名いて、 この2人が最も正解に近いのかな、と考えています。
実習で学んだとおり、重力は時空間的に変化するので、 ジオイド高(重力の等ポテンシャル面の1つ)も時間変化するはずです。 しかし、標高の定義が時間変化してしまうのはとても面倒なことなので、 日本では「東京湾の平均海水面が標高0mであり、かつジオイド面に等しい」と定義しています。 ただし、東京湾に標高0mを決める水準点があるわけではなく、 国会議事堂近くの日本水準原点(24.3900m)が日本の標高を定義しています。 (なお、日本水準原点の標高は東日本大震災の地殻変動により改訂されています。)
ところで、回転楕円体〜ジオイドの高さ(ジオイド高)は補正可能、という話をしましたが、 それは こちら のページで計算可能です。 京大付近だと約37mという値が得られるはずです。

レポートその1 : E班

問題 : 水準儀の 十字線 と 上下各スタジア線 のなす角度を θ とする。 各スタジア線の標尺読取値の差 (2d) を 水準儀〜標尺間の距離 (x) に一致させるには、θ を何度にすればよいか?


答え : 標尺の単位は [cm]、距離の単位は [m] であることに気を付けると、 x = 2d * 100 という関係が導出できる。 この式と三角関数の式から、θ ≒ d / x = 1 / 200 [rad] = 0.286 [deg] が計算される。 なお、ここでは微小角に対してθ ≒ tan θ となる関係を使用した。


解説 : 8人がこのレポートに回答し、このうち4人が完璧な回答でした。 惜しい回答は2人で、うち1人はラジアン単位までの結果の導出で、 もう1人は関数電卓でdegree表記で計算結果が出ていたのにそれをradianと勘違いしたものでした。 残りの2人は、単位の勘違いのため tan θ = 1 / 2 を解いた結果、非常に大きな θ が求まってしまったようです。 この問題に限らず、単位変換には気をつけましょう。

レポートその1 : F班

問題 : 水準儀を2本の標尺の中間に設置すべき理由は?


答え : 主に以下の効果に伴う誤差を消去・軽減するため。
@水準儀視線の水平からのずれ(視準線誤差)
A地球の曲率(球差)
B気温鉛直構造に起因する視線屈折(気差)


解説 : このレポートには7名が回答し、 @について5人、Aについて5人、Bについて1人が指摘をしていました。 このうち、1名は「等ポテンシャル面の曲率」という観点で指摘されていましたが、 実質Aと同じ内容と考えられるので、ここではAにカウントしています。
このほか、2名が 「水準儀を標尺の中間に置かないと、2つの標尺の目盛りの幅が異なる大きさに見え、 それが測定誤差に繋がる」という指摘をされていて、確かにその通りだと思いました。 人間の視線はどうしてもふらついてしまいますが、 ある人の視線のふらつき角度が時間的に変化しないと仮定すると、 遠い標尺の方が視線のふらつきに伴う読取誤差が大きくなると考えられます。
また、1人が標尺の傾きに伴う誤差について検討されていました。 数式も交えてしっかり考察されていて感心しましたが、 「水準儀を2本の標尺の中間に設置すべき理由」とは少し違うかもしれませんね。 確かに、2本の標尺が同じ角度だけ傾いていれば@〜Bと同様に誤差を相殺できるのですが、 2本の標尺はそれぞれ別の人が持っているので、傾斜角度が偶然同じになるとは考えづらいからです。

レポートその1 : A班

問題 : GPS測量に比べて水準測量は労力も時間もかかるのに、なぜなくならないのか?


答え : 以下の複数の理由によると考えられる。
@ GPS測量で得られる高さは精度が悪い(約1cm)が、水準測量では1mm以内の精度で高さを知ることができる。
A GPS測量で得られる高さは「楕円体高」であり、「標高」に直すには「ジオイド高」を差し引く必要があるが、水準測量では原理的には「標高」を直接測定することができる。
B GPS測量では衛星からの電波を受信するため、トンネルや地下では測量不可能であり、しかも森林や高層ビル地帯でも受信が難しくなるが、水準測量は空の見え方に関係なくどこでも実施することができる。
C GPS測量では建物や地面からの電波多重反射(マルチパス)によって座標値が不正確になることがあるが、水準測量では周囲の環境に左右されずに正しい比高を知ることができる。
D 一般に測量用のGPS機器は非常に高価であるが、水準測量はより安価な装置で座標値を得ることができる。


解説 : このレポートには5名が回答し、@0人、A1人、B3人、C4人、D2人がそれぞれ指摘しました。 実は一番期待していた答えは@だったのですが、残念ながら指摘した人はいませんでした。 スマホ等でGPS関連のアプリを導入するとすぐ分かりますが、 スマホのGPSアンテナのような簡便なアンテナの場合、標高値が正しい値から10m以上ずれることもよくあります。 ぜひ試してみてください。
このほか、2名が「GPS電波の混信や受信障害が発生しうる」と指摘しています。 GPS測量では衛星から送信される周波数1575.42MHz(L1)および1227.60MHz(L2)の電波を受信しています。 これらの周波数に近い電波が他の発信源から送信されていればもちろん混信が発生しますが、 実際の測量では電波の混信を気にすることはそれほど多くありません。 ただし、飛行機内で1.5GHz帯の携帯電話を使うと飛行機のGPS受信機に障害が起きるとか、 北朝鮮が強い電波を送信して韓国のGPS測量を妨害している、という話題もありますので、 特定の状況ではGPS電波の混信や受信障害も起きているようです。

レポートその2

課題 : 国土地理院設置の基本基準点を見てきて、自分との2ショット写真を撮る。


解説 : 以下では新規で訪問された基準点を記しています。


電子基準点 水準点 三角点 その他
C 1 2 5 0
D 0 5 3 1
E 0 4 0 0
F 0 1 1 1
A 0 2 0 0
合計 1 14 9 2

水準測量結果まとめ

吉田神社参道の鳥居(東西2箇所)の脇にある基準点を水準測量で結びました。単位は全てセンチです。 (表内のカッコは参考値。幼稚園児が機材を移動してしまったので、正しい測定ができませんでした。)


月日 往路 復路 較差
C-1 04/19 +194.60 ----- -----
C-2 04/19 +194.60 ----- -----
D-1 05/17 ----- -194.60 -----
D-2 05/17 +194.60 ----- -----
D-3 05/17 +194.60 ----- -----
E-1 05/31 +194.60 -194.50 0.10
E-2 05/31 +194.50 -194.30 0.20
F-1 06/14 +194.60 -194.30 0.30
F-2 06/14 +194.10 (-195.30) (1.20)
A-1 07/19 +194.60 -194.40 0.20
A-2 07/19 +194.55 -194.50 0.05
平均 194.50 0.17
標準偏差 0.15 0.10

重力測定結果まとめ

吉田南3号館の地下1階〜4階で相対重力測定を実施し、 各階の重力差から重力鉛直勾配を求めました。 単位は全てマイクロガル/センチです。


月日 B1 - 1F 1F - 2F 2F - 3F 3F - 4F
C 04/26 -2.558 -2.720 -2.858 -2.824
D 05/10 -2.522 -2.778 -2.795 -2.868
E 06/07 -2.462 -2.783 -2.869 -3.002
F 06/21 -2.556 -2.838 -2.811 -2.906
A 07/12 -2.428 -2.843 -2.906 -----
平均 -2.505 -2.792 -2.848 -2.900
標準偏差 0.058 0.050 0.045 0.076

更新履歴

08/03: Google Earthの地図、およびA班のレポート課題に対するコメントを追加
07/22: F班のレポート課題に対するコメントを追加
07/20: A班の水準測量結果を追加
07/13: A班の重力測定結果を追加
06/24: E班のレポート課題に対するコメントを追加
06/22: E班・F班の水準測量・重力測定結果を追加
06/06: D班のレポート課題に対するコメントを追加
05/31: C班のレポート課題に対するコメント、およびE班の水準測量結果を追加
05/27: D班の水準測量・重力測定結果を追加
04/26: C班の重力測定結果を追加
04/19: C班の水準測量結果を追加
04/15: このページを作成

写真: 重力並行観測
インドネシア・チビノンで行われた超伝導重力計(右)と絶対重力計(左)の比較観測の様子です。 本研究室が関連しているインドネシア重力測定の研究成果は、例えば以下の通りです。
Abe et al. (2006)
Sofyan et al. (2015)


測地学研究室へのアクセス
〒606-8502 京都府京都市左京区北白川追分町 京都大学理学部1号館2階 (地図