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繰り返し絶対重力観測によるアラスカ南東部の地殻隆起プロセスの把握

過去~現在の氷河融解に伴う地殻変動(GIA)を理解するために、私は2012年以降アラスカ南東部において繰り返し絶対重力観測を行ってきました。 この絶対重力データを解析することにより、正確なGIA変動量やアラスカ南東部直下の地下構造が分かってきました。

(初版:2016年9月1日)
(第2版:2023年5月4日)

過去~現在の氷河融解に伴うアラスカ南東部の急速な地表隆起

アラスカ南東部では過去~現在の氷河融解に伴って地面が隆起しています。 アラスカ大のGNSS観測の結果によると、隆起速度は最大で30ミリ/年を超えるほどの大きさです。 この隆起現象はGIA(Glacial Isostatic Adjustment: 氷河性地殻均衡)と呼ばれていますが、 「過去の氷河融解に伴うマントルの粘弾性変形の寄与」と「現代の氷河融解に伴う地殻の弾性変形の寄与」を含んでいます。 これら2つの寄与を正確に分離できれば、地球温暖化に関連した現代氷河の融解状況を詳しくモニターできます。


図1 : アラスカ南東部の地表隆起速度(ミリ/年)。Larsen et al. (GJI, 2004)より。

アラスカ南東部における繰り返し絶対重力測定(2006~2008年)

ここで注目されるのが重力変化です。 というのも、地殻変動と重力変化では質量移動に伴う応答が異なるので、上述の粘弾性変形と弾性変形の寄与を分離できるはずです。 (なお、重力変化は「現代の氷河融解に伴う万有引力変化」も含んでいるので注意を要します。)
そこでSun et al. (JGR, 2010)は、2006~2008年の毎年6月に現地を訪問し、絶対重力計FG5による繰り返し絶対重力測定を全6観測点で実施しました。 その結果、重力変化速度は最大-5.6マイクロガル/年、GIAおよびPDIMに伴う地表隆起速度はそれぞれ約+20, +5ミリ/年と得られました。


図2 : アラスカ南東部の主要5観測点における2006-2008年の絶対重力変化(マイクロガル/年)。Sun et al. (JGR, 2010)より。

アラスカ南東部における繰り返し絶対重力測定(2012~2015年)

Sun et al. (JGR, 2010)で実施された重力測定は2006~2008年の3年間のみであり、重力変化速度の誤差が大きい状態でした。 そこで、私は東北大学やアラスカ大学の皆さんと一緒に2012~2015年の間に3回の絶対重力測定を現地で実施しました。 その後、2006~2015年の全重力データを再解析した結果、アラスカ南東部の重力変化速度を高精度に得ることに成功しました。


図3 : アラスカ南東部の重力変化。Naganawa et al. (EPS, 2022)より。

重力変化のモデル化(長縄君の研究)

アラスカ南東部の重力変化は、以下の3つの変動が関連していると考えられています。 (1) 過去の氷河融解に伴うマントルの粘弾性変形の寄与、(2) 現代の氷河融解に伴う地殻の弾性変形の寄与、(3) 現代の氷河融解に伴う万有引力効果。 そこで、指導学生の長縄和洋君はそれぞれの効果を数値的に計算し、観測された重力変化を再現する研究を行いました。 特に(1)については地下の粘性構造が大きく関わってきますので、この数値計算の際には地下構造に関するパラメーターも同時に推定しました。
その結果、リソスフェアの厚さを55 km、上部マントルの粘性率を1.2 × 1019 Pa sと設定することで、観測された重力変化をよく再現することが分かりました。 また、アラスカ南東部の重力変化に最も強く効いているのは、小氷期(日本でいう江戸時代の頃の寒冷期)に蓄積した氷河が融解したこと伴う粘弾性変動であることが分かりました。


図4 : 重力変化速度の再現結果。Naganawa et al. (EPS, 2022)より。

今後の展開

本研究の一番の成果は、「絶対重力データを用いて地下粘性構造を決定できることを示した」点にあると考えています。 本研究の手法を用いれば、南極やグリーンランドといった氷河域においても地下構造を精度よく決定できるものと期待されます。 また、重力観測は現代の氷河融解に高い感度を有するので、氷河域での重力観測によって現代氷河融解量を詳しく把握できるかもしれません。
なお、アラスカ南東部の重力変化においてでは現代氷河融解の寄与が非常に小さかったため、アラスカ周辺の氷河融解の現状についてはまだ十分に検証できていません。 GNSS観測によるとこの地域の氷河融解が加速しているという研究例もありますので(Hu and Freymueller, JGR, 2019)、 絶対重力観測を今後も継続することで長期の重力時空間変動を把握する必要があると考えています。


図5 : 重力基準点MGVCでの絶対重力測定の様子。

関連論文・リンク

  • C.F. Larsen, R.J. Motyka, J.T. Freymueller, K.A. Echelmeyer, E.R. Ivins (2004): Rapid uplift of southern Alaska caused by recent ice loss. Geophys. J. Int., 158, 1118-1133, doi:10.1111/j.1365-246X.2004.02356.x. LINK
  • W. Sun, S. Miura, T. Sato, T. Sugano, J.T. Freymueller, M. Kaufman, C.F. Larsen, R. Cross, D. Inazu (2010): Gravity measurements in southeastern Alaska reveal negative gravity rate of change caused by glacial isostatic adjustment. J. Geophys. Res., 115, B12406, doi:10.1029/2009JB007194. LINK
  • K. Naganawa, T. Kazama, Y. Fukuda, S. Miura, H. Hayakawa, Y. Ohta, J.T. Freymueller (2022): Updated absolute gravity rate of change associated with glacial isostatic adjustment in Southeast Alaska and its utilization for rheological parameter estimation. Earth Planets Space, 74, 116, doi:10.1186/s40623-022-01666-7. LINK
  • Y. Hu, J.T. Freymueller (2019): Geodetic Observations of Time-Variable Glacial Isostatic Adjustment in Southeast Alaska and Its Implications for Earth Rheology. J. Geophys. Res. Solid Earth, 124, 9870-9889, doi:10.1029/2018JB017028. LINK
  • 本プロジェクトの研究協力機関

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