絶対重力計A10を用いた南極大陸上での絶対重力測定
私は2011-2012年に日本南極地域観測隊(JARE)の53次夏隊員として参加し、JARE史上初めて、南極大陸上での絶対重力測定を実施しました。 この測定データは過去・現在における東南極の氷床変動を把握するために非常に重要です。
(記事作成日:2016年8月31日)
過去~現在の氷床融解に伴う重力変化
重力観測は地球内部の質量移動を把握するのに有効な方法の1つです。
例えば氷河が融解すると、氷河質量の損失によって重力の万有引力成分が変化します。
また、地殻の弾性荷重応答によって地面が隆起し、それに伴って重力値は減少します。
さらに、過去にも氷河融解があった場合には、マントルの粘性変形によって地面はさらに隆起し、重力値の減少量も大きくなります。
重力観測値にはこれらの効果(全てをまとめてGlacial Isostatic Adjustment, GIAと呼ばれています)が全て含まれていますが、地殻変動を同時に観測することでそれぞれの効果を分離することができます。
図1 : 氷河性地殻均衡(GIA)の概略図。GFZウェブサイト より。
昭和基地周辺で行われてきた重力観測
南極東部に位置する昭和基地周辺では、日本南極地域観測隊(JARE)の発足以降重力測定が繰り返し行われてきました。 例えば、昭和基地(東オングル島)の重力計室では1990年代以降絶対重力計FG5による繰り返し重力測定が行われていて、-0.24マイクロガル/年という微小な重力変化が検出されています(東ほか, 測地学会誌, 2013)。 この重力変化は前述のGIAの影響と考えられますが、昭和基地周辺で同様の重力時間変化が起きているかどうかはよく分かっていません。 なぜなら、昭和基地周辺周辺の露岩では相対重力計による測定しか行われておらず、観測データの精度が悪いのです。 昭和基地周辺周辺の露岩でも絶対重力計によって絶対重力を直接測定できれば、GIAに伴う重力時空間変化がより正確に把握できると考えられます。
図2 : 昭和基地の絶対重力変化。東ほか(測地学会誌, 2013)より。
JARE史上初の南極大陸における絶対重力測定
そこで私は、JAREの第53次夏隊員として東南極を訪れ、絶対重力計A10による絶対重力測定を実施しました。 A10は従来のFG5よりも小型の絶対重力計で、屋外での観測を行うことができます。 私は昭和基地の重力計室やその屋外でA10を稼働させ、FG5と同等の絶対重力値が得られることを確認しました。 そして2012年2月3日、南極大陸の露岩・ラングホブデでA10による絶対重力測定を実施し、982 535 584.2 ± 0.7 マイクロガルという絶対重力値を得ました。 この成果は、JARE史上初めての南極大陸における絶対重力の直接測定となりました。
図3 : ラングホブデでの絶対重力測定結果。
今後の展開
本研究ではラングホブデでの絶対重力値を1個測定しただけなので、重力変化についてはまだ得られていません。 また、JARE53次隊は昭和基地周辺の厚い氷の影響で、砕氷艦しらせの所属ヘリのオペレーションが大幅に変更となり、南極大陸では結局ラングホブデ1カ所のみの観測に終わりました。 今後のJAREの観測ではラングホブデも含めた複数の露岩での絶対重力測定が計画されており、昭和基地周辺の重力時空間変化が得られると期待されます。 また、GNSSによる地殻変動の同時観測を行うことで、昭和基地周辺におけるGIAの影響を考察し、過去~現在の氷床融解プロセスが明らかになると考えられます。
図4 : 昭和基地重力計室の屋外での絶対重力測定の様子。
関連論文・リンク
- T. Kazama, H. Hayakawa, T. Higashi, S. Ohsono, S. Iwanami, T. Hanyu, H. Ota, K. Doi, Y. Aoyama, Y. Fukuda, J. Nishijima, K. Shibuya (2013): Gravity measurements with a portable absolute gravimeter A10 in Syowa Station and Langhovde, East Antarctica. Polar Science, 7 (3-4), 260-277, doi:10.1016/j.polar.2013.07.001. LINK
- 東敏博, 土井浩一郎, 早河秀章, 風間卓仁, 太田晴美, 大薗伸吾, 羽入朋子, 岩波俊介, 青山雄一, 澁谷和雄, 福田洋一 (2013): 南極昭和基地における絶対重力計FG5による重力測定と重力経年変化. 測地学会誌, 59 (2), 37-43, doi:10.11366/sokuchi.59.37. LINK
- 国立極地研究所 南極観測のページ