相対重力繰り返し観測による火山内部の質量変動の把握
鹿児島県の桜島火山では、地殻変動を伴わないような重力変化が発生しています。 これは新鮮なマグマが脱ガス・高密度化し、この脱ガスマグマが桜島直下に蓄積していることを反映しています。
(記事作成:2026年4月10日)
桜島における南岳噴火活発期の地殻変動
桜島火山では1975年~1992年ごろにかけて南岳火口で噴火が頻発していました。 噴火に伴って火山内部のマグマは外部に放出されるので、それに伴って桜島周辺の地表では長期的な沈降が観測されていました。 この沈降は、地下2か所のマグマだまり(姶良カルデラ直下の深部マグマだまり、および桜島中央部直下の浅部マグマだまり)が収縮することによって再現できることが分かっています。

図1 : 桜島南岳噴火活発期における地殻変動とそのモデリング。Oyanagi et al. (2026)より。
桜島における南岳噴火活発期の重力変化
桜島周辺では1975年から相対重力測定が繰り返し実施され、南岳噴火活発期には桜島中央部で重力増加が観測されていました。 地面が沈降すると(地表重力点が地球重心に近づく影響で)重力は増加するので、この重力変化は上述の地殻変動と調和的であるように思います。 しかし、上述の地殻変動に伴う重力変化を計算すると、観測された重力変化を十分に説明できないことが分かります。 これは、桜島直下で体積変化・地殻変動を伴わないような質量増加が起きている ことを意味します。 実際、重力変化の残差分を点質量によって再現すると、桜島中央部直下の浅部マグマだまりで 4 * 1010 kg/yr(年間4000万トン)もの質量増加が必要であることが分かります。

図2 : 桜島南岳噴火活発期における重力変化とそのモデリング。Oyanagi et al. (2026)より。
脱ガスマグマの蓄積に伴う質量増加
上述の質量増加は、脱ガスマグマの蓄積を反映していると考えられます。 一般に、新鮮なマグマには揮発性物質(火山ガス)が溶け込んでいて、マグマが地表近くの低圧域まで上昇してくるとガスを外部に放出します(脱ガス)。 脱ガス後のマグマは密度が増加するので、脱ガスマグマはマグマの通り道(火道)を下方に戻っていき、マグマだまりに蓄積します。 このようなマグマ対流は火山ガスの観測から既に提案されていて、脱ガスマグマが蓄積すれば重力増加として見えるはずだ、と以前から予想されていました(Shinohara, 2008)。 つまり、桜島の重力観測から明らかになった質量増加は、火山ガス観測から提案されていた脱ガスマグマの蓄積を意味していると考えられるのです。

図3 : 浅部マグマだまりにおける体積・質量変動の模式図。Oyanagi et al. (2026)より。
桜島火山のマグマ質量収支
桜島周辺では水準測量と重力観測が並行で実施され、それぞれのデータから桜島地下の体積変動・質量変動がモデル化されました。 これらの結果を統合すると、1975年~1992年の桜島では 5 * 1010 kg/yr(年間5000万トン)以上のマグマが地下深部から供給されていたことが分かりました。 一方、重力観測データを使用せず、水準測量に基づく体積変動のモデルのみを加味すると、地下深部からのマグマ供給量は1桁小さく見積もられます。 これは、火山内部の質量移動を正確に把握するには地殻変動観測だけでは不十分で、重力観測を併用すべきであることを意味します。

図4 : 桜島直下の質量輸送プロセスの模式図。Oyanagi et al. (2026)より。
今後の展開
ここまでの話は、桜島南岳噴火活発期(1975年~1992年)に関する研究成果でした(Oyanagi et al., 2026)。 1990年代以降、桜島の噴火活動は比較的静穏な状態が継続していますが、この静穏期においても桜島中央部の重力増加は継続しています(風間ほか, 2024)。 これは静穏期においても桜島直下の質量増加が継続していることを意味していて、今後も継続的な重力観測が不可欠です。 また、体積変動を伴わないような質量変動は他の火山でも一般的に発生している可能性もあり、桜島以外の火山でも相対重力の繰り返し観測を実施・継続していく必要があります。

図5 : 1990年代後半以降の桜島の重力変化。風間ほか(2024)より。
関連論文・リンク
- R. Oyanagi, T. Kazama, R. Kazahaya, I. Miyagi, K. Yamamoto, M. Iguchi (2026): Magma mass increase under Sakurajima Volcano, Japan, inferred from campaign relative gravity and leveling data from 1975 to 1992: An interpretation from volcanic gas studies. Earth Planets Space, 78, 45, doi:10.1186/s40623-026-02365-3. LINK
- H. Shinohara (2008): Excess degassing from volcanoes and its role on eruptive and intrusive activity. Rev. Geophys., 46, RG4005, doi:10.1029/2007RG000244. LINK
- 風間卓仁, 山本圭吾, 岡田和見, 大島弘光, 大柳諒, 小濱瑞希, 竹中悠亮, 井口正人 (2024): 桜島火山における繰り返し相対重力測定 (2023年10~11月および2024年3月). 京都大学防災研究所年報, 67B, 66-78, doi:10.14989/292424. LINK
