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地球物理学を志すことになったきっかけ

私はこれまで地球物理学の諸分野(測地学・火山学・陸水学・地震学など)に関わる研究を行ってきましたが、このような研究をすることになった経緯を念のため説明しておきます。 学部生・大学院生の方々に少しでも参考になれば幸いです。

(記事作成:2017年2月2日)

高校進学まで

​私は家族の影響で、小さい頃から地球や天体に興味がありました。 例えば、父と一緒に地元の山に化石を取りに行ったり、木星にできた隕石の衝突痕を望遠鏡で見た記憶があります。 また、私が小学6年の時に兵庫県南部地震が発生し、テレビを通して関西の悲惨な被害状況を目の当たりにしました。
このような経験が影響してか、高校進学時には地学の勉強をしたいと考えていました。 ところが、進学した高校では(他の多くの高校と同様に)地学を選択することができなかったため、やむを得ず物理・化学を履修し、大学で地学を学びたいと思うようになりました。


図1 : 兵庫県南部地震を引き起こした野島断層の断面。
2009年1月に野島断層の記念館を訪問した時の様子です。

大学学部時代:地球惑星物理学科へ進学

​大学の教養課程(1-2年生)ではいろんな講義を履修しましたが、やはり地球科学に関する授業が記憶に残っています。 特に、東大地震研・川勝教授の講義で「地震波を使って地球を診る」「物理の方程式を使って地球の諸現象を表現する」という内容に大変興味を持ちました。
その結果、大学の専門課程(3-4年生)では、地学科ではなく地球惑星物理学科に進学することにしました。 地球物理学はなかなか難しかったですが、高校で物理を履修しておいて結果的には良かったかもしれません。 大学4年の卒業研究では、川勝教授の下で地震波を用いた地球内核構造の研究に取り組みました。 なお、この結果は Kazama et al. (PEPI, 2008) として論文にもなりました。


図2 : 地球核を通過する地震波 core phase の伝搬経路。
図は Ed Garneroさん 作成のものを縮小化しています。

学部4年:研究室選択

大学院進学に当たり、もっと(人間の実生活に近い)地球の浅い部分を研究したいと思い、研究室をどこにしようか悩んでいました。 そんな中、2004年秋の浅間山噴火の際に東大地震研・浅間火山観測所を訪問し、絶対重力計という装置で火山の観測をしていることを知りました。 重力で火山を診る、というのは聞いたことがなかったので、面白そうだと思い測地学・重力関係の研究室に進むことにしました。
ちなみに、この浅間火山観測所見学の帰路で新潟県中越地震に遭遇し、長野新幹線・軽井沢駅で余震も経験しました。 なんとかその日のうちに東京に戻ることができましたが、関東でも運転見合わせが発生していることに気づき、相当大きな地震が起きたのだと大変驚きました。


図3 : 北東麓から撮影した浅間山(2004年10月23日撮影)。
白い噴煙が上空を通過し、火口付近には火山ガスの青白い煙も見えました。

大学院時代:なぜか水の研究に没頭

大学院では東大地震研・大久保教授の下で重力観測を用いた火山の研究...をすると思っていましたが、訳あって水の研究をすることになりました。 というのも、浅間山が噴火した2004年は台風が10個も上陸した年で、浅間山でも記録的な降水を記録しました。 そのため、重力観測データが降水・地下水流動といった陸水起源の擾乱に乱され、火山活動の重力シグナルが覆い隠されていたのです。
修士~博士の5年間、土壌採取や井戸設置、それに地下水流動シミュレーションなど、測地学研究室所属とは思えないような研究を試行錯誤で続けました。 途中で「研究を辞めてしまいたい」と思うこともありましたが、陸水擾乱補正の手法を何とか構築し、博士号を取得することができました。


図4 : 土壌採取の様子(2008年11月撮影)。
テストフィールドの岩手県奥州市・国立天文台水沢にて。

ポスドク時代:桜島・南極・アラスカへ

​博士号取得後は、京都大学の測地学研究室でポスドクを経験しました。 京都大学を選んだ理由は、測地学研究室が使用可能な重力計を豊富に所有していたからです。 当初は桜島で絶対重力の連続観測を行っていましたが、福田教授のお誘いで南極やアラスカでの絶対重力測定も経験できました。 「十分に時間が取れて重力計を使える若手」というのが日本にあまりいなかったので、消去法でお声が掛かったのかもしれませんが(笑)、結果的には大変貴重な体験をすることができ、それ以降の研究の幅も大いに広がったと感じています。


図5 : 砕氷艦しらせで撮影したオーロラ(2012年3月撮影)。
普段日本ではできない貴重な体験をたくさんさせていただきました。

そして現在に至る

​記事執筆現在、私は京都大学の測地学研究室で助教として勤務しています。 これまで行ってきた火山地域・氷河地域での重力測定のほか、実習系の授業や学生の指導も担当しています。 私自身測地学について十分な知識を有しているわけではないので、学生と一緒に学びながらコツコツ研究しています。
...以上、私が地球物理学を志す経緯をざっと説明しました。 学生の皆さんにおいては進路選択で悩むことも多いかと思いますが、若いうちは軌道修正もきくと思います(私自身も大学院進学時に研究室を変更し、研究で長期間回り道もしましたが、その後もなんとかやっています)。 その時その時で「これだ!」と思う道を選んで、突き進んでいただければと思います。

関連論文・リンク

  • T. Kazama, H. Kawakatsu, N. Takeuchi (2008): Depth-dependent attenuation structure of the inner core inferred from short-period Hi-net data. Phys. Earth Planet. Int., 167 (3-4), 155-160, doi:10.1016/j.pepi.2008.03.001.
  • 風間卓仁 (2010): 重力観測データに含まれる地下水擾乱の水文学的モデリング ~火山体マグマ移動の高精度なモニタリングを目指して~. 東京大学大学院理学系研究科博士論文.
  • T. Kazama, H. Hayakawa, T. Higashi, S. Ohsono, S. Iwanami, T. Hanyu, H. Ota, K. Doi, Y. Aoyama, Y. Fukuda, J. Nishijima, K. Shibuya (2013): Gravity measurements with a portable absolute gravimeter A10 in Syowa Station and Langhovde, East Antarctica. Polar Science, 7 (3-4), 260-277, doi:10.1016/j.polar.2013.07.001.

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