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Hi-netデータで明らかになった内核Q値の深さ依存性

私は日本の稠密地震観測網 Hi-net で観測された南米深発地震の core phases を解析することで、地球内核の非弾性Q値の深さ構造を見積もりました。 これは東京大学の4年生~修士課程時に川勝均教授(東大地震研究所)と行っていた研究です。

(記事作成日:2016年8月30日)

日本の稠密地震観測網 Hi-net

1995年の神戸地震以降、日本には複数の地震観測網が整備されました。 このうち、Hi-net は高感度短周期地震計のネットワークで、日本全国に約900点存在するボアホール型地震計によって構成されています。 Hi-net では、地球の真裏で起こった地震でさえもM6程度であれば検出することができます。


図1 : Hi-net の観測点分布(防災科研提供のKMZデータを描画)

内核を通る地震波の減衰

南米で起きた地震の地震波は地球の奥深く、外核(主に液体鉄から成る)や内核(主に固体鉄から成る)を通過します。 地球核を通るこれらの地震波(core phases)を Hi-net データで観測すると、内核を通る DF phase (別名PKIKP) という地震波だけが大きく減衰していることが分かります。 これは地球内核がわずかに非弾性的になっていることを示していますが、震央距離によって減衰の大きさが変化していることから、内核には非弾性の不均質構造が存在していると示唆されます。


図2 : 地球核を通って日本に到達した地震波。震央距離152-155度の DF phase の振幅が非常に小さいことが分かる。

内核の非弾性Q値の深さ構造

そこで本研究は、Hi-net で観測された南米深発地震の core phases から、内核の非弾性パラメーター(Q値)の深さ構造を求めました。 具体的には、内核を通らない地震波 BC (PKiKP) や AB (PKP) の振幅を基準として、内核を通過する DF phase の振幅から地震波減衰量 t (t-star) を見積もります。 ただし、これらの core phases には「震源における地震波放射特性」「地震波の幾何的減衰」「マントル最下部の地震波減衰」の影響が含まれますので、これらの影響を適切に補正します。 その上で、各波線の t を説明しうる、内核Q値の深さ構造を最小二乗法で計算しました。 その結果、内核表面下200-300kmで最もQ値が小さく(すなわち非弾性的性質が強く)、この層を通過する地震波が最も強く減衰していることが分かりました。


図3 : 内核中の非弾性Q値の深さ依存性。黒太線が本研究で得られた結果。

内核Q構造の解釈

一方、地震波到達時刻(走時)の解析によると、内核表面下200-300kmの地震波速度構造はやや速いことが分かりました。 これまで内核の小さなQ値は物質の部分溶融を示唆していると考えられてきましたが、部分溶融では「高減衰―高速度」を説明することはできません。 内核表面下200-300kmで「高減衰―高速度」となっている理由としては、内核物質の微細構造に異方性が存在するためと考えられます。 このことをより詳しく理解するには、南米~日本の波線以外にも多くの core phases のデータを収集し、より広範囲の内核Q構造を計算する必要があります。 (この点については、東大地震研時代の後輩である入谷良平がより詳しい解析をしてくれています。)


図4 : 内核中のP波速度の深さ依存性。黒太線が本研究で得られた結果。

関連論文・リンク

  • T. Kazama, H. Kawakatsu, N. Takeuchi (2008): Depth-dependent attenuation structure of the inner core inferred from short-period Hi-net data. Phys. Earth Planet. Int., 167 (3-4), 155-160, doi:10.1016/j.pepi.2008.03.001. LINK
  • R. Iritani, N. Takeuchi, H. Kawakatsu (2010): Seismic attenuation structure of the top half of the inner core beneath the northeastern Pacific. Geophys. Res. Lett., 37, L19303, doi:10.1029/2010GL044053. LINK
  • R. Iritani, N. Takeuchi, H. Kawakatsu (2014a): Intricate heterogeneous structures of the top 300 km of the Earth's inner core inferred from global array data: I. Regional 1D attenuation and velocity profiles. Phys. Earth Planet. Int., 230, 15-27, doi:10.1016/j.pepi.2014.02.002. LINK
  • R. Iritani, N. Takeuchi, H. Kawakatsu (2014b): Intricate heterogeneous structures of the top 300km of the Earth’s inner core inferred from global array data:II. Frequency dependence of inner core attenuation and its implication. Earth Planet. Sci. Lett., 405, 231-243, doi:10.1016/j.epsl.2014.08.038. LINK
  • 防災科学技術研究所 Hi-net
  • 東京大学地震研究所 川勝均教授

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